Rözer and Kraaykamp(SIR 2013) ジニ係数と主観的Well-being
自ら選択した論文ではないが,ゼミで輪読した論文.
Rözer, J., & Kraaykamp, G. (2012). "Income Inequality and Subjective Well-being: A Cross-National Study on the Conditional Effects of Individual and National Characteristics." Social Indicators Research, 113(3), 1009–1023.
概要
ジニ係数と主観的Well-being(以下SWB)の関連が,個人属性や国の属性によっていかに異なる影響を与えているかどうかを検討した論文.すなわち,マルチレベル分析の枠組みで,マクロ変数とマイクロ変数との交差項の効果に着目している.
イントロ
ジニ係数とSWBの関連をみた先行研究はたくさんあるが,その結果は整合性がない.つまり,ジニ係数が高い国ではSWBが高いという結果と,いやいやSWBは低いという結果が混在している.著者らによれば,こうした不一致はデータセットに含まれる国の違いによるものが大きいらしい.本論文では,より多くの国がサンプルに含まれるWVS(World Value Surveys)とEVS(European Value Surveys)を用いている*1.さらに,先行研究の知見からも,ジニ係数の効果は個人属性によって異なることが想定されるため(所得不平等を個人がどのように認知するかには個人差があると想定されるため),ジニ係数#個人属性の交差項をモデルに投入することでこのことを検証している.
方法
本文では,変数選択に伴って,理論・作業仮説が述べられていたが,ここでは省略する*2.
データ,変数,推計方法は以下の通り.
データ
WVSとEVSのうち1980-2008年に行われた5waveをプールしたもの.
変数
被説明変数
SWB→0(dissatisfied)-9(satisfied)
説明変数:
個人レベルの変数→education,employment status, marital status, denomination. church attendance, age, age2, gender, egalitarian norms, perceived income, social trust, institutional trust
国レベルの変数→GDP, national social trust, national institutional trust
推計方法
マルチレベル.個人が国にネストされている場合,OLSで推計を行うと標準誤差が過少推計になる(Snijders and Bosker 1999)ことに触れているが,BLUP(Best Linear Unbiased Prediction)については全く触れていない.この論文に限らないが,マルチレベルは混合効果(変量効果と固定効果を同時推計する)モデルであり,因果効果をみるのには不向きで,むしろ探索的な分析手法であることを強調して欲しい.そうしないと後述の結果がよく分からなくなる.
結果
ヌルモデルを含めてモデル0~4で変数を拡張している.まず,ジニ係数は一貫して有意に正.つまりジニ係数が高い国ではSWBも高い傾向にある.この結果は本稿の仮説と整合的だが,依拠する理論自体はどの程度のレベルのものなのかよく分からないため深入りはしない.サンプルサイズが20万弱なのでほぼ全ての変数が有意だが,主要な結果はジニ係数との交差項.
(1)マイクローマクロのクロスレベル
ジニ係数がSWBに与える正の効果は, egalitarian norms, perceived income, social trustが高い個人では弱まる.つまり交差項の係数がマイナス.
(2)マクロ変数同士の交差項
ジニ係数がSWBに与える正の効果は,national social trust, national institutional trustが高い国では弱まる.つまり交差項の係数がマイナス.
解釈
時間がないので省略.pp.1017-21をみよ.
感想
Well-being研究はあれも効いたこれも効いた,いややっぱりあれは効いていなかったこれは効いていたという論文が多い気がする.そういえば,本論文とは着眼点が異なるがAERのP&PにあったStevenson and Wolfers(2013)では,イースタリンのパラドックスはやっぱり違うという結果.既に存在するかもしれないが,メタ分析の論文が存在していたら読んでみたい.