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Watts(NHB 2017) 社会科学はもっと問題解決志向になるべきか

ダンカン・ワッツが社会科学のあり方について綴ったエッセイ.こういう話は既にいろんなところで多くなされてきているのだが,ワッツが書いているし短いのでサッと読んでみた.

Watts, D. J. (2017). "Should social science be more solution-oriented?Nature Human Behaviour, 1(1): 1-5. 

社会学*1としてMicrosoftに勤めているワッツは,同僚の物理学者やコンピュータサイエンティストとの交流が多く,しばしば「社会科学とは何か」について議論をするそうだ.本エッセイでは,そうした議論から生まれたであろうワッツの社会科学観のようなものが綴られている.結論としては,ワッツは「社会科学はもっと現実の問題を扱って,問題解決志向の分析をすべきで,そこからじゃあどんな理論が考えられるんだろうと問えば良い」と考えているようだ.以下に内容を箇条書きでメモ. 

・社会科学は物理学と違って一つの現象を一つの理論で説明できていない.例えば社会的伝染や集団行為を説明する際に,モチベーション自体は同じなのにGranovetter(AJS 1978)Bikhchandani et al.(JPE 1992)のように異なる説明の仕方が混在している.

・なぜこういう混在が起きているのかについて,昔は適切なデータへのアクセスがなく実際にテストできないからだと考える人たちがいた.ただしそれが問題だとしたら,今日のビッグデータを用いた計算社会科学や様々な実験によって解決されているだろう.

・社会科学における分析手法の発展は目を見張るものがあるが,現実には上述の問題は解決されていない.ワッツによれば,分析手法の発展によって理論の構築は一層の混乱を招く作業となった.

・社会科学に限らず,それぞれの分野がそれぞれの流儀や流行りの分析手法で論文を書いて評価を得ているため,分野間の交流が少ない.結果いろんな理論や結果が混在.

・そこで,現実問題の何かを対象にして様々な社会科学分野の研究者が分析すれば良い.この問題解決志向の良いところは以下の5点.

・First, the requirement that solutions work in the real world would automatically satisfy replicability requirements, thereby disciplining social-scientic theorizing in ways that would augment the existing peer review system.

・Second, solving any nontrivial real-world problem would almost certainly require fundamental advances in social-behavioural science, and possibly also in related fields such as computer science and statistics.

・Third, realizing these advances would require tightly coordinated, multidisciplinary team-based research of the sort that is common in industry but largely absent in academic social science. 

・Fourth, constructing teams of this sort would bring the incoherency problem to the forefront and force researchers to address it directly.

・Finally, the emphasis on practical applications would help justify larger upfront investments than are typical for social-science research, thereby enabling more ambitious research designs. 

 

 ワッツのいう問題解決志向の社会科学研究って既にかなりあるのではと思いながら読み始めたが,ワッツは社会科学のすべての研究が問題解決志向になるべきだと言ってるわけではなく,またこれまでの社会科学で問題解決志向の研究がなかったと言っているわけではないことを繰り返していた.また最後の方でワッツが,「(問題解決志向の研究において)研究そのものは専門家だけが理解できる複雑なものであるが,問題の内容を理解したり,提案された解決策が実際に機能しているかどうかを確認するために特別な専門知識は必要ない」と述べているのは印象的である.ちなみに,2015年には『社会学評論』でも「社会学は政策形成にいかに貢献しうるか」という特集が組まれており,ワッツのいう問題解決志向の研究と遠くない内容である.

 なお,ビッグデータの利用可能性と分析手法が飛躍的に発展するなか,理論はもういらないのかという問いが色々なところで立てられているが,ほとんどの人は「いや依然として理論は重要」「ビッグデータを使う時こそ理論の重要性が増す」と答えている.マイケル・メイシーもそんなようなことを言っていた.

*1:ワッツ自身が自らを名乗るときに社会学者としているが,彼の博士号は物理学.