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Polavieja(ASR 2015) 伝統主義は女性労働参加を抑制するか:Synthetic IVによる推定

価値観が行動を規定することは社会科学でしばしば指摘されているが,本稿では伝統主義(traditionalism)が女性の就業/非就業に影響を与えているのかを分析している.

Polavieja, J. G. 2015. "Capturing Culture: A New Method to Estimate Exogenous Cultural Effects Using Migrant Populations." American Sociological Review 80(1): 166–191.

推定したいのは伝統主義T(0~5の値をとる)が女性の就労に与える効果である.ここでIVを使う.まず分析対象を移民に絞り,彼らの伝統主義を欠損値にする(実際には観察されている).次に,その移民経験者の出身国の人たちの伝統主義を共変量に回帰させてimputationして得られるsynthetic trait(T')を得る.このT'をTの操作変数にするということだ.操作変数の仮定としては,独立性,関連性,除外制約があるが,著者はこれを満たしていると述べている.だが,明らかに独立性,除外制約は満たしていないだろうというのが読んでみての感想である.

独立性について,著者のディフェンスは「実際に移民が現在住んでいないところの人たち,つまり社会環境が違う人たちから合成されたT'なので現在の移民が住んでいる環境からは独立である」というものである.おかしいのは,第1に,IVが独立でなければならないのは著者がいう社会環境だけでなく,共変量を含めたあらゆる欠落変数に対してだ.したがって著者はそうした変数との関連がないのかをチェックすべきだが,その点については何も言及されていない.第2に,住んでいる国が違うからといって社会環境が全く異なるというわけではない.確かに国が違えば文化は異なるが,当然共通する部分だってある.共通する部分があれば著者のいう"By construction, synthetic traits satisfy the exogeneity condition"というのは成り立たない.著者曰く,このSynthetic IVは疫学で使われるらしいのだが,まずい気がする.

除外制約について,著者はかなり苦し紛れに書いているのが分かるが,結果として除外制約が成立しているとするのは無理がある.著者はまず以下のように述べる.

Unlike the exogeneity condition, the exclusion restriction is not automatically ensured by the use of migrating populations. Suppose, for instance, that we used donors' age and schooling as the sole predictors of traditional values in the imputation equation. In this case, we would impute synthetic values of traditionalism for migrants by imposing on them the same age-schooling-traditionalism covariance matrix as observed for donors. The problem in this example is that synthetic values would be computed as a linear product of two variables that do not satisfy exclusion.

このままでは除外制約を満たさないので,以下の対処をしている.

To ensure the exclusion restriction is met, the imputation regression should include at least one regressor that is (arguably) orthogonal to the error term in the structural equation of interest (i.e., one that has no effect on Y other than through T). I propose to use regressors that measure cultural transmission as a means to build exclusion into the imputation model.

ここで言われている誤差項に直交する説明変数として,移民の出身国における(おおまかな)一世代前の女性労働参加率である.除外制約はIVであるT'がTを通してのみアウトカムに効果があるということであるのに,imputationの回帰式に特定の説明変数を加えたからOKという話とは別である.さらに言えば,一世代前の女性労働参加率がほんとうに直交しているかどうかも怪しい.

ざっと読んだだけでも問題点と思われる箇所が目に付いたが,ASRに通っているし,実はSynthetic IVというのはかなり進んでいたりするということもあるのだろうか(ざっとググった感じはそうでもなさそう).このあたりは詳しい人に教えて欲しい.アバディーらのSynthetic Controlはかなり使える手法だと思うが,著者が提唱しているSISTER=Synthetic IVというのは可能なのだろうか.分析の結論としては,伝統主義思想は女性労働参加をかなり抑制するようで,教育効果の約2倍ほどあるらしい.