Charles et al. (SS 2015) ケアワークにおける世代間再生産

親がケアワーカーだと子もケアワーカーになりやすいのかを検証した論文.

Charles, M., Ellis, C., & England, P. 2015. "Is There a Caring Class? Intergenerational Transmission of Care Work." Sociological Science 2: 527–547.

親の社会経済状況が子の社会経済状況に大きな影響を与えることは広く知られている.社会学では伝統的に階級や階層の世代間継承が分析されてきたが,特定の職業の世代間継承については蓄積が少ない(Weeden and Grusky 2005; Jonsson et al. 2009).そこで,著者らはケアワークという職業に着目し,親から子への世代間再生産が生じているのかを検証している.データはGSSで,1977年から2010年のなかの23waveを使用している.GSSを使用するのは,回答者の親の職業や従業上の地位に関する質問項目を含むからである.ケアワークの定義に関しては,先行研究で指摘されているものに則っている(看護や介護系はもちろん教師,保育士,ベビーシッター,チャイルドマインダー,在宅医療従事者等も含む).現在ケアワークに従事しているかをアウトカムに,着目する独立変数には親(父と母を分けて)がケアワーカーであったかを設定している.基本的な属性や職業威信等が統制されている.ロジスティック回帰分析を行った結果は,同性の親がケアワークであった場合には子もケアワークに従事する確率が高くなっている.但し,女性に限っては異性である父親がケアワークに従事しても自らがケアワークに従事しやすいという結果を得ており,これは男性の場合に異性である母親ケアワークの効果がないことと異なる.世代間継承のメカニズムは様々あるが,著者らが挙げているのは利他傾向のあるケアワークに就く親は子に生活面でも利他心を伝えることがあり,子に継承された利他心は,子が職業選択の際に「利他傾向が求められるだろうケアワーク」を選択しているという図式だ.それに対して,そんな図式は存在せず,ただ単に子が親と全く同じ職業を選択している可能性もある.そこで著者らは親子で全くおなじ職業(親と子が両方とも幼稚園の職員,親と子が両方とも看護師など)の対象者を除いて再分析している.すると先ほど得られた親の効果はすべてなくなっており,このことから,著者らは親から子へのケアワーク継承は,ケアワークという職種全体で生じているというよりも,ケアワークにおける特定の職業を継承するという形で生じているだろうと述べる.なお,補助的な分析によって親がケアワークだと本人が(質問紙上で)利他的になりやすいという傾向はほぼない*1ことも確認している.分析の粗さはあるものの,この枠組みは日本でも応用可能なので非常に興味深いし,やってみる価値があると思う.著者らがあげている世代間継承のメカニズムについて一点付記すれば,今日のケアワーク選択理由としては積極的/消極的に二極化してる*2と思われるので,そのあたりをうまいマクロ変数を設定して分析することも可能だろう.今回の分析から著者らがいうような,

Care-working parents may transmit values, networks, and human capital resources that are specific to detailed occupations, rather than generic to care work.

こういうことが本当に生じているかは怪しい.

*1:ケアワークの場合のみ息子が利他傾向

*2:本当はケアワークに就きたくないがその他に選択肢がないのでケアワークに就いたという人もいまや少なくない.