O'Brien et al.(SMR 2008) APC混合効果モデル

簡単なメモをしておく.アウトカムに対する年齢(age),時代(period),世代(cohort)の効果を識別するのは単純でない.なぜなら「世代=時代ー年齢」が成立しているからだ.これらを工夫して何とか識別しようとするのがAPCモデルであるが,これは社会学での呼び方であり(おそらく),経済学や政治学ではなんと呼ばれているか知らない.例えば,経済学で有名なDeaton and Paxson(JPE 1994)ではAPCモデルという語は使われていない.それはさておき,本論文はAPCの世代特性におけるランダム効果推定のメリットを提示するものである.

O’Brien, R. M., Hudson, K., & Stockard, J. (2008). "A Mixed Model Estimation of Age, Period, and Cohort Effects." Sociological Methods & Research, 36(3), 402–428.

APCを同時投入すると完全な多重共線性が生じるため,著者らによればこれまで以下の解決策がとられてきた.

1. APCの関連を線形から非線形にするために少なくとも1つの変数を適当なものに変換する
2. APCの2つ以上の変数についてアウトカムに対する効果が全く同じであると仮定する
3. 特定のコーホートの効果が時間の変化に応じて変化すると仮定する

私は第1の方法のものをよく見る気がするのだが,著者らによれば,上記で最も用いられるのは第2の方法らしい.さて,本稿では次式のように年齢,時代を固定効果,世代特性をランダム効果として推定している(Age Period Cohort Mixed Model: APCMM).
{ \displaystyle
Y_{ij}=\mu+\alpha_i+\pi_j+\chi_k+\upsilon_k+\epsilon_{ij}
}
{ \displaystyle \mu }は切片,{ \displaystyle \alpha_i, \pi_j }は年齢と時代の固定効果(ダミー変数),{ \displaystyle \chi_k}は世代特性,{ \displaystyle \upsilon_k }はランダム誤差項である.APCMMの利点として著者らは以下のように述べている.

They can (1) assess the amount of variance in the dependent variable that is associated with cohorts while controlling for the age and period dummy variables, (2) model the dependencies that result from the age-period-specific rates for a single cohort being observed multiple times, and (3) assess how much of the variance in observations that is associated with cohorts is explained by differences in the characteristics of cohorts.

世代の固定効果はコントロールされていないので,年齢と時代の効果については留意が必要となるのは言うまでもない.APCのうち1つ以上の効果が0である場合にはOLSで推定しれやれば良いが,APCすべての効果を無視できない場合には本論文のように混合効果モデルで推定するのもひとつの手である.