読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Goldthorpe(ESR 2001) 因果関係,統計学,社会学

イギリスの社会学者ゴールドソープが因果関係について整理し,さらに社会学で因果関係の分析がいかになされるべきかを説いているエッセイ.

Goldthorpe, J. H. (2001). “Causation, Statistics, and Sociology.” European Sociological Review, 17(1), 1–20. 

まずゴールドソープは,Bernert(1983)を引用しながら,因果関係という概念が社会学で十分に検討されてこなかったことを指摘する.さらに,確率論と決定論の話に少し触れた上で,統計学の影響を受けながら形成された因果分析(causation)の概念を以下の3つに分類する.

1.Causation as Robust Dependence

 相関関係が因果関係ではないという話はどこでも聞く話だ.これに続く話として,例えば社会学で学部前半の講義であれば,ラザーズフェルドのエラボレーションの話がでるだろう.エラボレーションとは,クロス表でXとYに関係がありそうな場合に,新たな変数ZでXとYを条件付けたらXとYの関係が消えましたね,というだけの話だ.この場合,明らかにXとYはrobust dependenceではない.こうした作業の延長として,多変量解析の場合には変数を追加してコントロールすることもある.一方で計量経済学の場合,Granger(ECTA 1969)で有名なグレンジャーの因果が注目された.グレンジャーの因果は時系列での話であるが,時系列の計量テキストで有名な沖本(2010)では,定義を以下で与えている.

現在と過去のxの値だけに基づいた将来のxの予測と,現在と過去のxとyの値に基づいた将来のxの予測を比較して,後者のMSEの方が小さくなる場合,y_tからx_tへのグレンジャー因果性(Granger causality)が存在するといわれる.(p.80)

グレンジャー自身が述べているように,グレンジャー因果性は将来の予測に焦点があるが,ラザーズフェルドのエラボレーションにしてもグレンジャーの因果テストにしても,XがYに対してrobust dependenceかどうかをチェックしようとしているということだ.1960~80年頃の社会学では,このrobust dependenceの追求が因果分析と考えられていたとゴールドソープは述べている.ちなみにこれはMorgan and Winship(2014)が「回帰の時代」と述べているのと重なる.

 こうした分析は今日では因果分析(推論)として考えられていないし,果たしてこれを因果分析の3類型に組み込んでいるのはやや疑問だが,少なくとも上記のような分析が因果分析と考えられていた時代やコミュニティがあった(ある)ということをゴールドソープ先生が語ると時代認識が膨らむ.

2.Causation as Consequential Manipulation

 上記のrobust dependenceよりは今日的なトピックであるように,ここでの因果分析では興味のある変数を操作することで因果効果をみることを指す.つまり実験研究におけるRCTである.RCTの場合に,処置以外の共変量はtreatment groupとcontrol groupで有意に差がないはずなので(充分なサンプルサイズで大数の法則),この2群の差を平均因果効果として解釈できるというわけだ.こうした考え方は,シンプルかつ(共変量を完全に除去しており)強力なので,robust dependenceに比べると統計学者にも因果分析として受け入れられる.これは当然だ.ゴールドソープはほぼ言及していないが,RCT以外にもconsequential manipulationの系にはIVやRDD等のquasi-experimentも含まれる.この章のみならず,このエッセイでゴールドソープが引用している文献は古すぎてかなり違和感があり,今日の因果推論を多少なりともフォローしてる人ならば「その問題提起古くない??」となるかもしれない.それはさておき,ゴールドソープも言うように,社会学界ではmanipulationアプローチに対して賛成派と反対派がいる.賛成派はもちろんソーベル.反対派として挙げられているのはStanley Liebersonである.ゴールドソープはどうかというと,「俺は違う道を行く!」と言っており,それが次のCausation as Generative Processである.

3.Causation as Generative Process

 robust dependenceを今日的な因果分析の分類として採用するのは不適当だと思うので除外するが(歴史的な話として分類するには役に立つ),manipulationで確認された因果効果はどのようなメカニズムで生じたのだろうか??それを考えるのが社会学が因果分析で取り組むべきことだろうというのがゴールドソープの主張であり,これをGenerative Processと呼んでいる.Generative Processは因果メカニズムと呼んでいいかもしれない.Generative Processを解明することは先のconsequential manipulationの分析結果をよりリッチにさせるので,その限りで両者の分析は補完的であるとゴールドソープは述べている.

 

 以上,かなり簡単にまとめたが,ゴールドソープはGenerative Process推しである.Consequential ManipulationとGenerative Processが補完的だというのは全くその通りだと感じる.このエッセイでゴールドソープは触れていないが,社会学では他の社会科学分野に比べて様々な分野で(必ずしもフォーマライズされていない)理論・質的分析が蓄積していると思うので,そうした理論・質的分析結果の蓄積がGenerative Processに貢献する点が大きいだろう.具体的には,ゴールドソープがGnerative Processの仮説構築で必要な作業としているcrucial subject-matter inputのあたりだろうか.計量屋と質的屋がタッグを組むことでGenerative Processの分析は前進すると思うので,まずは自分からこうした姿勢を心がけて頑張りたいなと感じさせるゴールドソープ御大のエッセイでした.