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Xie(2007) ダンカンの流儀:社会学における人口学的アプローチ

最近まわりで耳にする論文なので読んでみた.

Xie, Yu. 2007. "Otis Dudley Duncan's Legacy: The Demographic Approach to Quantitative Reasoning in Social Science." Research in Social Stratification and Mobility, 25(2): 141-156.

ダンカンといえばお笑い芸人とビートたけしのものまねが思い浮かぶかもしれないが,ここでのダンカンは社会学者のダンカンである.社会学では計量分析への貢献者として有名であり,またブラウとの共著American Occupational Structureは社会移動・階層の古典としてあまりにも有名である.
ここでは計量社会学の簡単な歴史と,ダンカンの研究スタンスが事例とともに紹介されている.目次に沿ってまとめる.
1.Population thinking versus typological thinking
 エルンスト・マイヤーによれば,プラトン以降の本質主義(essentialism)に親和性がある類型学的思考(typological thinking)と対立図式にあるのが集団的思考(population thinking)であり,後者はダーウィンによって導入されたものである.社会物理学の提唱者としても知られるケトレに続き,統計学を社会を思考する道具にしたのはゴルトン(ダーウィンのいとこ)である.いずれも統計学ツールにしていたが,両者は以下の点で異なっていた.すなわち,ケトレは集団における平均(average)が安定的であることに着目した一方で,ゴルトンはあまり平均(average)に関心をもたないどころか平均が安定的だとも思わず,むしろ全体の分布に興味を持っていたようだ.ゴルトンは後にregressionやcorrelationの概念を提唱している.類型学的思考(typological thinking)と集団的思考(population thinking)の考え方の違いは誤差をどのように捉えているかにもあらわているという.類型学的思考(typological thinking)については,

In typological thinking, deviations from the mean are simply "errors," with the mean approaching the true cause. That is, the true cause is con- stant, but what we actually observe is contaminated by measurement error.

というわけであり,集団的思考(population thinking)については,

In population thinking, deviations are the reality of substantive importance; the mean is just one property of a population. Variance is another, equally important, property.

というわけである.ダンカンはmeanとaverageの違いについてもこだわっていたことが書かれている.ところで類型学的思考(typological thinking)と集団的思考(population thinking)は,方法論的個人主義集団主義(holism)の関係とどう関連しているのかが気になった.
2.Duncan as a population thinker
 ダンカンがpopulation thinkerであり続けたことが説かれている.著者のXieへ送ったメールからも文章が引用されていて面白い.ちなみに,ダンカン自身は1984年のNotes on Social Measurement: Historical and Criticalを生涯の代表作と考えていたらしい(2004年9月27日のXieとのやりとりで).

Notes on Social Measurement: Historical and Critical

Notes on Social Measurement: Historical and Critical

集団的思考とダーウィンについて,ダンカンはNotes on Social Measurementのなかで以下のように述べている.

Darwin's emphasis on the variation among individuals in any natural population and the heritability of such variation actually provides the general conceptual framework for psychometrics and makes clear its affiliation with the population sciences. (Psychophysics, by contrast, has usually taken a typologically oriented interest in the species norm. . .and has only grudgingly conceded the existence of interindividual variation, regarding it as a nuisance rather than a primary object of inquiry.) (p. 200)

ダンカンは,普遍的な因果法則を社会に求めるのは意味がないと感じており,社会科学はpopulation scienceだと信じていたとXIeは述べている.
さらに,ダンカンの立場を強調するために,Xieは類型学的思考(typological thinking)と集団的思考(population thinking)をそれぞれGaussian approachとGaltonian approachと結びつけている.両アプローチの定式は以下となる.

Gaussian approach (typological thinking): Observed data = constant model + measurement error

Galtonian approach (population thinking): Observed data = systematic (between-group) Variability + remaining (within-group) variability

XieがDavid. Freedmanに指摘されているように,上記の違いは明確ではなく(統計的には同じ定式なので),解釈の問題であることを最初に断っておく.ここでGaussian approach (typological thinking)派として挙げられているのが社会学者Blalockと先ほどの統計学者Freedmanで,Galtonian approach (population thinking)派として挙げられているのがダンカンである.Causal Inferencec in Nonexperimental Researchの著者であるBlalockが広くあてはまる因果法則を志向していたのに対して,ダンカンはきっぱりと,

The stress on the populational as opposed to the typological approach is valuable. I was totally unable to get it across to H. Blalock.

反対している.面白いのはフリードマンとダンカンの手紙のやりとりである.フリードマンがブラウ・ダンカン本でのパス解析の使い方を批判しているのに対して,ダンカンは手紙で「確かにまずかったかも」と反省している点等々,なんども手紙のやりとりをしているようだが,お互いの立場は典型的なGaussian approach [vs] Galtonian approachだったようであり溝は埋まらなかった.ちなみにフリードマンはダンカンに"Your distinction between the Gaussian and Galtonian regression traditions seems right."と書いているそうである.
3.Duncan's influence on quantitative reasoning in social science
 人口学と社会学が接近したのは主にダンカンの貢献であることが述べられている.
4.Dissatisfaction with statistical sociology
 ダンカンは社会学における計量分析に大きな不満があったようである.というのも,パス解析の回帰係数があたかも因果関係のように解釈されている研究が非常におおかったからである.パス解析の提案者ともいわれるダンカンは,因果関係を特定するというよりは,変数間の構造(相関関係)に着目し,問題提起をする意味でパス解析を用いていたが,巷ではダンカンの思いとは異なるように分析手法が流布していったからである.ダンカンは計量経済学者のゴールドバーグとも親交があったようで,ダンカンは社会学と経済学の違いについて以下のように述べている.

Sociologists appear to be most interested in an "inductive" strategy with respect to models, holding to the somewhat forlorn hope that it will be possible to "discover" the right model through data analysis ...... Economists, I take it, have somewhat more confidence in their theories which have a status of a priori information with respect to their models, and therefore are more concerned with efficient estimation.

うーん....こうした分類というか区別について社会学者と経済学者がどの程度同意するのだろうか.とりあえずこの章で強調されているのは,ダンカンは無頓着に統計的分手法を用いる社学者(この傾向をstatisticismとして揶揄している)に対して心底怒っていたということである.そしてなによりも,

quantitative tools should not be used to discover universal laws that would describe or explain the behaviors of all individuals. He totally rejected such endeavors as meaningless. He believed that all quantitative analysis can do is to summarize empirical patterns of between-group differences while temporarily ignoring within-group individual differences.

というのがダンカンの信条だそうである.
5.The key problem: population heterogeneity
 ここではダンカンがラッシュモデルにはまっていたこととpopulation heterogeneityの分析に重心を置いていたことが確認されるが,ダンカン曰く,

In the little thinking I do these days about the old battles I fought, it has increasingly seemed to me that one of two or three cardinal problems that social science has not yet come to grips with is precisely this issue of heterogeneity... The ubiquity of heterogeneity means that for the most part we substitute actuarial probabilities for the true individual probabilities, and therefore we generate mainly descriptively accurate but theoretically empty and prognostically useless statistics.

である.
6.Conclusion
 Xieはダンカンを非常に慕っていることが伺えるが,まとめるとダンカンの計量社会学への貢献は,ダーウィンにより導入されゴルトンによって発展させられた集団的思考を社会学界隈に周知した点であるそうだ.すなわち,ダンカンによれば計量社会学の重要なタスクとは,集団的多様性の体系的なパターンを記述することであるそうだ.

晩年のダンカンはpopulation heterogeneityに注力したが,結果として計量社会学にガッカリ(disappointed)したそうである.ガッカリというのはどういう意味でXieが使っているのかは分からないが,ダンカンのガッカリも,仮にダンカンが今日の統計的手法を勉強すればだいぶ緩和されたのではないかという気がする.確かにHeckman(2001)が述べるように,population heterogeneityは因果推論のみならず応用計量分析にとって課題ではあるが,なにもできていないわけではないし,現在の計量分析ツールがpopulation heterogeneityについてなにも分析できていないと言えば単なる勉強不足だと笑われるだけだろう.ダンカンの志向も分かるが,Gaussian approach [vs] Galtonian approachという図式を取り出して「俺はこっちだお前はこっちだ」とか言い続けるのではなく(もちろんこうした解釈は重要である),そういうのはある程度内に秘めておきながら今日の社会学者はもっと計量分析の方法論で勝負できるようにならなければならないと感じる.社会学のテリトリーにもかかわらず,方法論で遅れをとっているために他分野にのっとられるという例は決して少なくないしこれは悔しいことである.最後に,ダンカンはこんなジョークもとばしている.

Economists reason correctly from false premises; sociologists reason incorrectly from true premises. Thus they create two complementary bodies of ignorance. (Duncan to Yu Xie, June 28, 2003)