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Hwang and Sampson(ASR 2014) ジェントリフィケーションの進化メカニズム

シカゴにおいてジェントリフィケーションがどのように生成し変化しているのかを分析した論文.

Hwang, J., & Sampson, R. J. (2014). "Divergent Pathways of Gentrification: Racial Inequality and the Social Order of Renewal in Chicago Neighborhoods.American Sociological Review, 79(4), 726–751. 

 

本稿で用いるジェントリフィケーションの作業定義は,「投資の失敗や経済停滞を経験した中央市街地が再投資や再興,そして中流もしくは中上流階級者の流入を経験するプロセス (Smith 1998). 」である.これまでの都市研究では,ジェントリフィケーションに象徴される社会移動がホットな話題であったが,ジェントリフィケーションの進化過程はよく分かっていない.先行研究の計量分析のほとんどはセンサスデータ等を利用してジェントリフィケーションを分析しているが,それではその土地の細かな地理的条件,環境変化 (イオンができたとか民間企業の本社がきたとか大学が新設されたとか)等を観測できない.そこで,著者のサンプソン(都市社会学の大御所)らが目をつけたのがグーグルストリートビューである.ジェントリフィケーションを捉える際の主軸は,その地域に新しい商業施設が建設されたり,古い建物が現代風に改築されたりと,「再開発」や「再投資」である.したがって,仮に物理的・視覚的な「再開発」「再投資」の状況を得点化できれば,その得点をジェントリフィケーションの進行尺度として使えるのではないかというが本稿の根本的な発想であり,「それってグーグルストリートビューである程度できるじゃん?」というのがサンプソンらの主張である.そして,このジェントリフィケーションを測定する尺度がGoogle Street View gentrification observations (GGO) scoreであるが,GGOスコアは以下の3項目の平均得点である.

(1) structural mix 

この指標は,the combined condition of older structures, which indicates an area’s preexisting socioeconomic status, and the degree of new structures and rehabilitationであり,実際には複数項目から構成されたものをヒトがグーグルストリートビューをみて判断(該当するものがあれば1を割り当て)し,平均得点を算出している.

(2) visible beautification effort

 この指標はefforts discouraging disorder (painting over graffiti),personal frontage beautification, and vacant/public space beautificationであり,その地域が美化活動にどの程度力を入れているかをグーグルストリートビューの画像から判断している.

(3) lack of disorder and decay 

この指標はlack of physical disorder, lack of unkempt vacant/public space, and lack of decaying structuresであり,その地域のdisorder度合いを計測している.

門外漢の私はこの尺度の妥当性がよく分からない.だがこの尺度を受け入れるとすると,ジェントリフィケーションの全く生じていない地域では,(1)低い,(2)低い,(3)高い,という数値になり,一方,ジェントリフィケーションの進んだ地域では(1)高い,(2)高い,(3)低い,になることがわかる.コーディングマニュアル等はオンラインアペンディックスに掲載されている(読んでも結構分からない箇所が多かった).なおインタビュー等の分類の信頼性をあらわすカッパ係数は0.5であり,やや低い気がしないでもない.とりあえず,ここで算出されたGGOスコアがジェントリフィケーションの尺度とされていることを確認しておく.

さて,被説明変数であるGGOスコアが確定したところで,説明変数であるが,黒人比率やヒスパニック比率,貧困率,持ち家率,空き家率,observed disorder,perception of disorder,殺人事件数,各種施設への距離,中心部か否か,高速バスのバス停があるか,ミシガン湖沿いか,公園があるか,公営住宅の割合が1割を超えているか,インフラ支出額等を投入している.ちなみにobserved disorderとperception of disoerderはサンプソンらが好んで使う概念というか変数であり,それぞれ以下のように操作化されている.

  • observed disorder: multi-item scale based on the presence or absence of the following items: cigarette/cigar butts, garbage/broken glass, empty bottles, graffiti, abandoned cars, condoms, and drug paraphernalia. 
  • perception of disoerder: Residents were asked to rate “how much of a problem” various social and physical incivilities were in their neighborhood—including drinking in public, selling/ using drugs, teenagers causing a disturbance, litter, graffiti, and vacant housing. 

両方ともblock-faceで集計されているので,tractレベルの値を算出するためベイズ推定がなされている(観測誤差に対応するため).

分析モデルは以下(ところではてなブログtexって使えるんですか?).

GGO = β0 + β1G95 + β2B95 + β3B925 + β4H95 + Σnk=5βkZk + ε

 Gは95年時点でのジェントリフィケーション段階(これは先行研究のデータを使用),Bは黒人比率,Hはヒスパニック比率,Zはコントロール.

分析はモデルを拡張していき8モデルがあるが,主要な結果だけを述べれば,

  • 黒人比率・ヒスパニック比率は有意にGGOスコアを低下させており,これはモデルを拡張してもロバストに効いている.さらに黒人比率がGGOスコアに与える効果は非線形である,閾値が存在する(地域の黒人比率が40%を越えると急激にGGOスコアが低下するが,40%以下だとGGOスコアに大きな変化はない).
  • perceived disorderは有意にGGOスコアを低下させる.observed disorderは効いておらず,perceivedのみが有意に効いているのは評判や偏見の問題と密接に関連していると推測される.(但しobserved disorderはPHDCN というプロジェクトで撮影されたシカゴの全ストリートの画像をもとに,ゴミ箱がちゃんとあるかとか割れた瓶が路上に落ちているかとかそういったものを変数にしたものであるため,録画日によって変動が大きいはずである.なのであまり信頼できる変数ではないだろう)
これまでジェントリフィケーションをどう計測するかで議論があったが,この手法はこの分野の躍進に繋がるだろうと著者らは述べている.GGOスコアの算出に使うストリートビューをしてコーディングする作業はマニュアルがあるものの,主観的なものであるため,その点限界だとしているが,これまでのセンサスデータのみでは分からないことがたくさん分析できるのは利点だろう.そもそもストリートビューを使って何か変数を作成するという発想がなかった.同じ枠組みで日本でジェントリフィケーションの話をしようとしても,的外れなところがあるかもしれないが,ストリートビューを使って説明変数を作成したりなんてのはできるんじゃないかと思えてきた.しかしながら,コーディング作業に膨大な時間を要することが予想されるため,人員が確保できないとできない作業だろう.結果としてこのことがサンプルサイズの少なさにもつながってしまうことは本文でも指摘されていた.
最後にインプリケーションであるが,分析結果によれば,黒人比率やヒスパニック比率の高い地域というのはそもそもジェントリフィケーションが起こりにくい.黒人比率やヒスパニック比率の高い地域というのは多くが貧困地区である.ジェントリフィケーションといえば,中上流階級のひとたちが貧困者の居住地区に移り住み追い出すという状況がイメージされてきたが,実際には,中上流階級のひとたちは黒人やヒスパニック比率が高い地域には流入していなかったし,治安の評判が悪い(perceived disorder)地域にもあまり移動していなかったのだ.ただこういう効果がはっきりと確認できるのはシカゴだけなのではという気もする.